雇用凍結によりNIHを離れる

アメリカ

2025年2月、NIHのVisiting Fellow任期を満了し、NIDAを離れました。本来は同じラボでさらに数年働く予定でしたが、政治的な流れに巻き込まれ、やむを得ず断念することになりました。

 ボスの部屋からのボルチモア市街の景色

忘れないうちに、時系列で起きたことをまとめておきます。かなり特殊な出来事で、NIHの上司たちも「ここ数十年でこんなことはなかった」と言っていました。正直、研究者キャリアの参考にはならないかもしれませんが…笑。

2024年12月まで

NIHのResearch Fellow(H-1B)オファーを受諾し、VISA取得のプロセスを完了。2025年2月に着任予定でした。
Research FellowはFTE(Full-Time Equivalent)として政府職員に採用される点が、Visiting FellowやPostbac(非雇用扱い)と異なります。Research Fellowは枠に限りがあり、Scientific Directorの承認が必要です。一方J1の延長は基本的にPIの裁量で承認できます。
J-1の延長(+2年)を選べば仕事は継続できましたが、当時はアメリカでの独立の可能性も模索していたので、帰国義務や期間の短さを考え、将来の永住権申請の可能性も見据えてResearch Fellowを選択しました。

2025年1月16日

HRから採用確定のメール

“Hello Yosuke, Congratulations on your appointment with the NIH! ~”

2025年1月20日

新政権発足と同時に、大統領令「Federal Civilian Hiring Freeze」が発令。

2025年1月21日

HRからのメール

“NIH Job Offer Rescinded
Dear Yosuke Arima,
This job offer is cancelled in accordance with the Presidential Memorandum directing a Federal Civilian Hiring Freeze, dated January 20, 2025, which is effective immediately. Thank you for your interest in employment with the NIH.”

その後の動き

NIDA事務局や関係部署がすぐに動いてくれました。メールの一例:

“Dr. Arima has an approved I-797 (H-1B), e-NOA from DIS, and a Final Offer Letter effective February 9, 2025. OHR rescinded the job offer just 15 minutes ago (see below).
The Executive Order states: ‘it does not limit the hiring of personnel where such a limit would conflict with applicable law.’ Would rescinding this offer not conflict with immigration and labor law?”

残念ながら状況は変わらず。おそらく同時期に採用予定だった多くの人も影響を受けたのだと思います。
その後、政権とDepartment of Government Efficiency(DOGE)により試用期間の職員やDEIA関連職員など、多数の政府職員が解雇されました。私は解雇ではありませんが、影響を受けた「第一陣」といえます。

進路の再検討

数日後、部門チーフ(Dr. Shaham)の勧めで別ラボ探しを開始。
選択肢は次の3つでした:

  1. Hiring Freezeが解除されるまで待つ

  2. 一時的に別ラボに異動し、解除後に戻る

  3. 完全に別ラボへ異動する

最初は1や2を期待しましたが、最終的に3を選択。結果的に1や2は実現しませんでした。

元ラボでの仕事が完遂していないこと、そして妻があと2年は留学を続ける予定だったことから、米国東海岸に絞って就職活動を開始しました。約2週間でしたが、いくつかオファーをいただき、その中からBIDMC/Harvard Medical Schoolを選択しました。ラボ選びを誤ったわけではありませんが、振り返ると、もう少し時間をかけて幅広く検討してもよかったかもしれません。当時は切迫感と飛び交う噂に翻弄され、冷静な判断力を欠いていたと思います。日本での就職はまったく選択肢に入れませんでしたが、今となっては考慮してもよかったと感じます。


2025年2月5日

正式にBIDMC/HMS行きを決定。ここから半年かけて採用・VISA手続きを進め、日本で待機しました。

 本部キャンパスのNIH Building 1


補足:当時の噂と現実

  • 数か月後に雇用が再開される→ 2025年9月時点でもFTE採用は依然難しい状況

  • NIHのI-797Aを次の職場に移せる→ 実際には移せなかった(採用成立後なら可能性あり)

  • NIHが統合再編され、一部の研究所が消える→ 実現はしていないが、可能性はまだある

以上が、政治の荒波に巻き込まれてNIHを離れることになった経緯です。色々ありましたが、研究キャリアを続けられていることに感謝し、 頑張っていこうと思います。

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